もののふ莫迦
書 名:もののふ莫迦
著者名 :中路 啓太
出版社名:中公文庫
登場人物:岡本越後守、粂吉、加藤清正
update by 2025/12/26
「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞した、中路啓太氏の『もののふ莫迦』。
受賞から少し時間は経過したが、ようやく手に取る機会を得た。
本作は、自身の信念を貫き通す異様に強い戦国武将・岡本越後守(おかもとえちごのかみ)という「もののふ」を描いた物語だ。
馬鹿正直というか、単なる融通の利かない頑固者とも違う。己の信念を違える者であれば、たとえ生殺与奪の権を握る相手であっても反抗するその姿勢は、まさに「かぶき者」と呼ぶにふさわしい。
戦国時代のかぶき者といえば、前田慶次郎(利益)を彷彿とさせる。 特に加藤清正と対峙するシーンは、慶次郎が叔父の前田利家や豊臣秀吉に見せた不敵な態度そのものだ。
合戦シーンにおいて味方を鼓舞しながら死中を切り抜ける姿も、読みながら二人の姿を重ねて見てしまう。
これほど慶次郎の姿と重なるのは、私の中で『一夢庵風流記』や『花の慶次』の印象が強すぎるためかもしれないが、それほどまでに越後守のキャラクターが立っているということだろう。
本書は、肥後・田中城の攻防を描いた前編と、朝鮮の役(文禄・慶長の役)を描く後編で構成されている。
前編では、越後守の故郷である肥後が豊臣勢に蹂躙され、多くの仲間の命が奪われる悲痛な展開が描かれる。
田中城の攻防で九死に一生を得た越後守は、不本意ながらも仇敵である加藤清正へ仕える運命となるが、その根底にある「もののふの心」を忘れることはなかった。
そして物語は、越後守が朝鮮へと出陣する後編へ。
この戦に大義を見出せない彼は、もはや自身を縛るものは皆無とばかりに、己の信じるもののために半島で大暴れする……。そんな痛快歴史小説かと思いきや、後半は少々予想を裏切られる展開が待っている。
自由気ままに己の大義を想う岡本越後守と、組織の一員として大義を見出そうとする加藤清正。
この二人の心の対比は非常に興味深く、単なる活劇に留まらない、魂の叫びを描き出した傑作である。
★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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